鯖江 魚勇本店


suc4-a01 2002年9月13日   福井県鯖江市/鯖江駅前 魚勇本店

本日の出張先は鯖江、電車は13時47分発大阪行きのサンダーバード26号。
発車まで1時間半あまり、ちょうど昼時、ゆっくり食事でもと思い駅の周辺を探す
が食事の出来そうなところが無い。

大概のの駅前にはそば屋だの定食屋だのがあるのだが、鯖江の駅前は全くそれらし
き看板が見あたらない。デジカメでスナップッショットしながら歩いていると旨そ
うな臭いが漂って来た。
臭いの方へ鼻を向けると飴色に焼かれた魚が薄汚れたガラスケース越しに目に飛び
込んできた。油が飛び散り薄汚れたガラスが妙に魚を引き立てて旨そうにみせる。
そいつをデジカメに納めて目を左に振ると”食事出来ます”と書いた紙が見える。
店の奥でこっちを見ているおばさんに目を合わせて軽く会釈をすると、にこっとほ
ほえんで出てきた。

「食事が出きるんですか」と声を掛けると、「お魚定食だけですけど良いですか」
というので、それで良いとお願いした。
おばさんは私たち一行を2階の座敷へ案内した。客は私たちだけ。座敷はきれいに
掃除がされており、いい雰囲気だった。

待つこと十数分、運ばれてきたのはヒラマサの刺身、アカウオの煮付け、菜っぱの
和え物、新香とご飯にみそ汁。
一般的な定食のパターンだった。あまり期待はせずにヒラマサの刺身にわさびを載
せて醤油をつけて口に放り込む。やや厚切りのヒラマサを一口かんだらマグロをか
んだ時の様な油がはじけて、旨みを口中に放出した。敦賀湾で水揚げされた新鮮な
ヒラマサがちょうど良い時間ねかされてアミノ酸が程良く生成された絶妙のタイミ
ングで私の口へ放り込まれたのだろう。この旨いヒラマサを続けざまに三切れほど
味わって、新米の香り漂う飯をかき込んだ。
魚の鮮度が悪いとご飯を口に入れた途端に魚の臭いが爽やかなご飯の香りを邪魔す
るが、今日は新米の香りのみが口に広がった。
みそ汁も甘からずしょっぱからず、煮干しの程良いだしが利いた上品な味付けだっ
た。
続いてアカウオの煮付け。じっくり時間をかけて煮た証拠に表面が飴色にかがやい
ている。艶々した切り口が箸を急がす。淡泊であるが、しっかり煮込まれた身はし
っとりとした口当たりとほのかな甘みの捏妙なバランスで舌を楽しませてくれる。

普段なら外してしまう皮もゼラチン状のまるで煮こごりの様に舌の上で溶けてしま
った。こんなに満足した食事は久しぶりだった。
決して女房殿の料理にけちを付けているのではなく、違った次元の職人の評価とし
ての満足感である。

あまりの旨さに、あっという間にたいらげてしまい、電車の発車時間までは一時間
以上を残している。どうせ客は私たちだけなのだから、少し昼寝でもさせてもらお
うと冗談をいっていると、連れの一人がビールでも飲もうといいだした。
ここの入り口にあった「越前ウニあります」を思い出して、ビールのあてにこのウ
ニをいただこうという事になった。もちろん、下戸の私はビールには参加しないが
ウニには大賛成で参加を表明した。宇都宮君が階段を下って注文へいった。彼は直
ぐに戻り、ウニは6000円だそうで、ビールの当てなら少しでいいのではと言わ
れてそうした事を私たちに告げた。
彼の後を追うようにおばさんが瓶ビール1本
とコップ三本をお盆に載せてやって来た。

テーブルに置かれたお盆にはぐい飲みほどの
容器が載せられ、その中をのぞき込むと濃い
茶褐色の飴状のものが中ぐらいの梅干しほど
に入れられている。

怪訝そうな顔をしていると、おばさんはこの
物体の説明をはじめた。
当然ながら敦賀湾で取れた生ウニを期待していたが、それは塩ウニだった。
敦賀湾で取れたウニに塩を加えて練ったものだそうで、仕込んで日が浅いためにや
や塩がなじんでいないそうだ。そう聞いて早速箸の先につけてなめてみると、磯の
香りが口の中いっぱいに広がった。これほど磯の香りを感じる食べ物は初めてであ
る。目を閉じると磯にたって大きく深呼吸でもしている気分にしてくれた。ややし
ょっぱいが、この魅力に負けて早速お土産に包んでいただく様にお願いした。
おばさんの名前はすえこさん。塩ウニは羽二重雲丹(はぶたえウニ)について丁寧
に説明をしてくれた。このすばらしい磯の香りを詰め込んだウニが国東半島に帰り
着いてもその状態が変わらないことを願う。
今日は最高に良い一日だった。久々に心が満
たされた日だった。
旨いものはうれしい。旨いものは気持ちが満
たされる。
旅は楽しい。旅はおいしい。旅はすばらしい
発見がある。

今日は9月13日の金曜日。キリスト教では
ない私には関係ないが、無事にこの幸せを国
東半島に運んで欲しい。

飛行機はANA187便。
13日の金曜日と187(いやな)便が気に
なった。
9月14日・・なに事も無し・・・